楽譜に献呈の名前はない。でも、ある女性のために作曲されたワルツです。作曲当時19歳のショパンはワルシャワ音楽院で一緒に学んでいたコンスタンツィア・グヴァドコフスカに恋していました。その想いは親友ティトゥスに手紙で打ち明けています。
「僕は悲しいかな、僕の理想を発見してしまったのだ。もうこの半年間というもの、毎晩のように彼女の夢を見ているが、まだ一度も口をきいていない。僕は心の中で彼女に忠実に仕えてきた。彼女のことを夢に見、彼女のことを想いながら僕はコンチェルトのアダージョを書いた。そして今朝、このワルツを書いた。君に送ろうと思う。この ワルツの中間部の左手の最高音に託した僕の思い、きっと君なら分かってくれると思う。」
これがコンスタンツィア本人に渡した手紙ではなくて、唯一の胸の内を打ち明けられる親友への手紙であることがショパンの純情を感じられていじらしい。このティトゥスはショパンより2歳年上、兄のような存在だったのでしょう。
曲はモデラートの速度表記。ゆっくりと散歩をしているような叙情詩的なワルツです。右手が2声になっているので弾きわけることが求められます。わたしたち聴き手としてはショパンとコンスタンツィアを聞き分けるようにしましょう。変ト長調の中間部の左手の音型は特徴的で左手の最高音の変ホ音には彼女を思う熱い思い、やるせない情熱が込められており静かな魂の叫びに聞こえてきて聴く人の胸を打ちます。女性を思う気持ちが最高の形で昇華された傑作だと思います。