2025-09-24

即物的なメカニカルさや厳つく物騒な響きとも違う。現代的に洗練した ― アメリカ人作曲家が書いたピアノ協奏曲の傑作

2025-09-24 0
9/24 (Wed)Today's Topics
20世紀に活躍したアメリカの作曲家、サミュエル・バーバーのピアノ協奏曲が初演された日(1962年)。ニューヨークにあるリンカーンセンターのエイヴリー・フィッシャー・ホールの杮落としの音楽祭でブラウニングのピアノと、エーリヒ・ラインスドルフの指揮、ボストン響による初演。テクニカルな第1,3楽章と比べ、メロディアスな第2楽章がバーバーの真骨頂。生涯で唯一のピアノ協奏曲である。


Samuel Barber / William Schuman - John Browning, Leonard Rose, George Szell, The Cleveland Orchestra ‎– Piano Concerto / A Song Of Orpheus - COLUMBIA MS6638

US COLUMBIA MS6638 セル バーバー・ピアノ協奏曲/W.シューマン・オルフェウスの歌
20世紀に活躍したアメリカの作曲家、サミュエル・バーバーのピアノ協奏曲が初演された日(1962年9月24日)。ニューヨークにあるリンカーンセンターのエイヴリー・フィッシャー・ホールの杮落としの音楽祭でブラウニングのピアノと、エーリヒ・ラインスドルフの指揮、ボストン響による初演。テクニカルな第1,3楽章と比べ、メロディアスな第2楽章がバーバーの真骨頂。生涯で唯一のピアノ協奏曲である。

世界初録音US COLUMBIA MS6638 セル バーバー・ピアノ協奏曲/W.シューマン・オルフェウスの歌

サミュエル・バーバーがジョン・ブラウニングのために書き下ろした超絶技巧のピアノ協奏曲の初録音盤。他の演奏家もあまり取り上げていません。ブラウニング自身、指定の速度では演奏不可能という事で書き直しを依頼した部分もあるほどです。またセル指揮のオーケストラも舌を巻く上手さだ。
  • US COLUMBIA MS6638 セル バーバー・ピアノ協奏曲/W.シューマン・オルフェウスの歌
  • US COLUMBIA MS6638 セル バーバー・ピアノ協奏曲/W.シューマン・オルフェウスの歌

凄まじい音の構築物

  • 卓越した超絶技巧と繊細な美音で知られる、20世紀アメリカを代表する名ピアニスト、ジョン・ブラウニング。ブラウニングの全盛期1960年代の録音は今聴いても素晴らしく、彼がヴァン・クライバーンのライバルとして全米を席巻していたことも頷けます。ブラウニングはバーバー作品の演奏で有名。この《ピアノ協奏曲》は、ピアニストのジョン・ブラウニングをソリストに想定して作曲されている。
  • バーバーのピアノ協奏曲は、アメリカ人作曲家が書いたピアノ協奏曲の中でも傑作と言われて、初演では絶賛されたという。録音自体は多くはないが、アメリカ人ピアニストによるものが多い。しかし、この種の音楽は録音よりも実演で聴くと意外に面白かったりするものだ。
  • バーバーといえば《弦楽のためのアダージョ》が、一番有名なのでこの曲を真っ先に思い浮かべる人が多いに違いない。元は『弦楽四重奏曲 ロ短調 作品11』の第2楽章を弦楽合奏用に編曲したものであり、また『アニュス・デイ』(英: Agnus Dei、神の子羊)という無伴奏混声合唱曲にも編曲された。アメリカでは、この曲が有名になったのは、ジョン・F・ケネディの葬儀で使用されてからである。そのため個人の訃報や葬送、惨事の慰霊祭などで定番曲として使われるようになったが、バーバー自身は生前「葬式のために作った曲ではない」と不満を述べていた。日本においては、昭和天皇の崩御の際に、NHK交響楽団の演奏を放映した。映画『プラトーン』でも使用されてイメージが付いてしまっているからか、この曲を聴くと《弦楽のためのアダージョ》を書いた同じ作曲家とは思えないような作風なのだ。
  • 第1楽章は長いピアノのモノローグで始まる。ベートーヴェンの4番、5番のピアノ協奏曲を思わせるスタイルながら、かなり現代的な響きです。そこにオーケストラが絡んできて美しい主題を演奏します。その主題をピアノが引き継ぎヴァイオリンとペアになるのですが、すぐにピアノパートは細かな装飾的な音型を奏します。次第にモノローグの音型が解体されてピアノとオーケストラにちりばめ嵌め込まれていきます。
  • 旋律といえるほど歌謡性はあまりないが、テンポが速く、鋭いリズムと細かなパッセージが多いので、強く訴えかけるような急迫感がある。
  • とてもピアニスティックで、音の詰まった高速のパッセージに加えアルペジオと和音を多用した流麗で華やかなピアノの響きが、とても綺麗。頻繁に緩急・静動が入れ代わり、急迫感の合間に挟まれる静寂で呟くようなピアノの響きは幻想的。最後はピアノのモノローグがオーケストラに浸透したかのようにピアノとオーケストラは一体となって、凄まじい音の構築物となったかのような盛り上がりのうちに楽章を閉じます。ヒンデミットのような即物的なメカニカルさや乾いた叙情感とは違い、また、リーバーマンのような厳つく物騒な響きとも違う。やや水気を含んだ冷たく研ぎ澄まされた叙情感がとても美しい。
  • 第2楽章はとりわけ美しく聞きやすいメロディーを持っています。最初はフルートで、そしてピアノで演奏される旋律は非常にロマンティックです。オーボエやホルン等が短くフレーズをはさみますが、ピアノは聞き手に徹しているかのように伴奏に回っています。ディベートの順番が回ってきて再びピアノがメロディーを受け持ち、今度は弦楽器が引き継ぐ際にはピアノが伴奏に回るなど、ピアノとオーケストラパートの合奏協奏曲を思わせる比較的古典的な手法をとっているように感じられます。とりわけ「夜」を感じされる楽章です。
  • 第3楽章は一転、非常にアグレッシブな音楽をきかせます。導入のブラスによるファンファーレは混沌でも野蛮でもなく、野獣のような勇壮さ。第1楽章にも増してピアニスティックで、打楽器的奏法が多用されている。リズムが5拍子という事もあり、現代的に洗練したスタイルです。ドラムがオスティナート的に低音を連打しているのが、とてもリズミカルで、疾走感も充分。同時代のアメリカ人作曲家、コープランド、ローレム、ガーシュウィンなどのピアノ協奏曲には、ジャズはもちろんフランス音楽の影響を感じさせるところがよくあるが、バーバーにはそういうところはない。プロコフィエフに通じるロシア風のロマンティックでピアニスティックな荒々しさを融合させてくる。
  • 最初に始まる旋律は、ここでもまずピアノが担当し、次に金管楽器が引き継ぎ、互いに伴奏をつけるスタイルです。中間部に入るとピアノとオーケストラで同じ主題を受け渡していき、オーケストラが主役を演じます。ピアノは装飾的・伴奏的な役割に徹し、リズムセクションのように伴奏しているので、ピアノはオーケストラパートの一つのように聴こえる。木管楽器が最初の部分を弱音で再現すると、再び音量を上げピアノと金管楽器の掛け合いになります。終結部も迫力があります。オーケストラが主題を演奏する中ピアノは複雑な駆け上がりを見せ、一瞬の混沌としたリズムのなか大盛り上がりのうちに全楽章を閉じます。
  • 第1楽章と第3楽章は緊迫感と勢いがあるので、これをライブで聴くとかなり高揚感を感じるに違いない。批評家も絶賛したというのも、納得できる。
【ジョン・ブラウニングのプロフィール】1933年、コロラド州デンバー生まれ。5歳で母にピアノの手ほどきを受け、10歳でロジーナ・レヴィーンに師事。同年デンバー交響楽団のソリストとして出演。1945年、家族とともにロサンゼルスに移住し、オクシデンタル・カレッジで2年間過ごした後、1950年からはニューヨークのジュリアード音楽院でロジーナ・レヘンネに師事。1955年、レーヴェントリット・コンクールで優勝して大きく注目され、1956年にニューヨーク・フィルと初共演。1962年にはリンカーン・センターのオープニング・コンサートのために書かれたバーバーのピアノ協奏曲(ピューリッツァー賞受賞)の世界初演を担っています。1970年代からは過労で演奏会の回数を減らしていましたが、1990年代には本格的な演奏活動に復帰し、その生涯の頂点を極めました。最後の演奏会は、2002年4月、ワシントンのナショナル・ギャラリー・オブ・アートでのリサイタルで、その翌月の2002年5月に米国最高裁判所で特別に招待された聴衆の前で弾いたのが最後の公開演奏となりました。2003年1月26日、69歳で心不全のため亡くなりました。

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