従順な妻というものは、夫に従うことで夫を支配する。 パブリアス・サイラス
1810年に生まれたロベルト・シューマンは、二十歳の時ピアニストを志してヴィークに弟子入りします。そこでヴィークの次女クララに出逢います。9歳で楽壇デビューした11歳の少女に触発されたのでしょうか。ピアノの練習の無茶がたたります。良く知られている通り、打鍵強化装置成るものを考案します。古い例えですけど、男性のクラシックファンが良く取り上げるのが「巨人の星」の大リーグ養成ギブス。スプリングの力で筋力を鍛えようとするものです。
シューマンは小指と薬指がそれぞれにしっかりと打鍵できるように、小指と薬指の動きを矯正しようとして結局薬指の運動機能を損ねてしまいました。
相手が女だと分かると、男性は対抗意識を持って優越感に浸りたいもののようです。相手にしたところで何も生産しない争いになるので、かまわないのが一番です。一人悦に入って貰っていましょう。
ヴィークから師弟関係を解かれてしまって、シューマンは未来の希望を失います。ここで登場するのが女です。自暴自棄にある時に、時をおかず助言したのがクララ。
「ロベルト(シューマン)には、作曲の才能があるじゃありませんか」と背中を押して励まします。二十歳を出たばかりの女性として、見事に処世術も心得ている女性だったようです。9歳からメジャー・オーケストラとの丁々発止も、そして多くの支持を得ているところから、強引さよりもかわしの巧いものだったのでしょうね。
こんなことがありました。シャミナードを聴いていた時のことです。ドビュッシーみたいだけれども、フォーレより明るくて愛らしいねと感想を言われたので、フランスのシベリウスと答えたあとでブルジョワ生まれの女性作曲家だと証すと、顔色が変わって「道理で甘ったるい曲ばかり」と言われました。ホワイトハウスで御前演奏をしたと言うことではカザルスが良く上げられますけれども、シャミナードもホワイトハウスで、ルーズベルトを御前に演奏していますし、イギリスではヴィクトリア女王に御前演奏を乞われています。
さて、シューマンとクララ。
クララはピアノの演奏ばかりでなく、作曲も数多く残しています。その数はシャミナードの100曲を超える作品と並ぶぐらい女性作曲家としては多いのではないかしら。シューマンのピアノ協奏曲は、当初1楽章のピアノと管弦楽の為の曲でした。それが3楽章の協奏曲に整う家庭に、クララのピアノ協奏曲を手本としていることは最近では間違いのないことだと判断されてきています。
シューマンは4年前に、没後150年のアニヴァーサリーで大きく取り上げられていたことと、今年はショパン・コンクールとも重なることでショパンイヤーとしてクローズアップされています。
そこで、ことしアニヴァーサリーになる作曲家はと見回すと、興味深いことに気がつきました。
2010年のメモリアル・イベントに当たるのは、
シューマン 生誕200年
ショパン 生誕200年
マーラー 生誕150年
ヴォルフ(フーゴ)生誕150年
アルベニス 生誕150年
ケルビーニ 生誕250年
ドホナーニ 没後50年
コープランド 没後20年
バーバー 生誕100年
良く知られている作曲家の順番で並べると、こうなるでしょうか。有名な順番と言うよりも、重要な順番。
そして、音楽史上で欠かせないのが今週のNHK-FM「バロックの森」で取り上げられた2人の作曲家。
2010.1.4(月)~1.8(金)
ご案内:大愛崇晴
今週は、今年2010年に記念の年をむかえるバロックの作曲家の作品を中心にお送りします。
月曜日から水曜日までは、1660年に生まれ、今年生誕350年の記念の年をむかえるフランス・バロックの作曲家、カンプラの作品を中心に取り上げます。カンプラの名前はあまり知られているとは言えませんが、フランス・バロックを代表する二人の作曲家、リュリとラモーの間をつなぐ世代の重要な作曲家です。カンプラの代表的な劇音楽《みやびなヨーロッパ》は、歌を中心とするオペラの要素とバレエを組み合わせ、その後18世紀前半のフランスで大きな人気を博したジャンル、「オペラ・バレエ」の最初の作品とされています。この作品はプロローグと四つの幕からなり、本編では、それぞれフランス、スペイン、イタリア、トルコを舞台として、相互につながりをもたない軽い恋愛物語が、歌とバレエによってつづられていきます。
カンプラは、南フランスのエクサン・プロヴァンスの出身であり、イタリア人の家系に生まれたためか、イタリア音楽の影響をつよく受けていました。そうした影響は、とくに世俗的な室内カンタータや独唱のためのモテットに認めることができます。カンプラはこれらの作品に、語りの部分と旋律的な歌の部分が交互にあらわれる形式や、技巧的ではなやかな歌唱法など、イタリア音楽に特徴的な要素を積極的に取り入れています。
木曜日と金曜日は、カンプラと同じく1660年生まれで、今年生誕350年をむかえるイタリア・バロックの大作曲家アレッサンドロ・スカルラッティの作品をお送りします。アレッサンドロ・スカルラッティは、オペラや教会音楽など、とりわけイタリア・バロックの声楽曲の展開に大きな足跡を残した人物です。また、550曲以上もの鍵盤楽器のためのソナタを残した作曲家ドメニコ・スカルラッティの父親としても知られています。
木曜日は、スカルラッティの大規模な宗教作品《主は言われた》と、青年時代にスカルラッティから大きな影響を受けたヘンデルの、イタリア語による室内カンタータ《捨てられたアルミーダ》などをお送りします。金曜日は、スカルラッティの鍵盤作品を聴いていただきますが、これは、20分近くにもわたって途切れなく演奏される長大なトッカータで、すぐれた鍵盤楽器奏者としての彼の知られざる一面を垣間見せてくれるでしょう。またこの日は、今年生誕300年の記念の年をむかえるイタリア・バロックの作曲家ペルゴレージの宗教作品もあわせてお送りします。
それでは、本年もよろしくお願いいたします。
2010年1月4日(月) ご案内:大愛崇晴
(副題:今年記念の年を迎える作曲家の作品を中心に(1))
「みやびなヨーロッパ」プロローグから
序曲
反目の女神とヴィーナスのアリア「何という突然の恐怖よ」
カンプラ作曲
反目の女神(ソプラノ):ラシェル・ヤカール
ヴィーナス(ソプラノ):マリヤネ・クウェクシルベル
合奏:ラ・プティット・バンド
指揮:グスタフ・レオンハルト
(11:08)
<BMG JAPAN BVCD-38191-92>
「みやびなヨーロッパ」第1幕「フランス」から
セフィーズのアリア「平和な地よ」(デトゥーシュ作曲)
羊飼いのアリア「皆でため息をつこう」
パスピエ 第1番と第2番
カンプラ作曲
セフィーズ(ソプラノ):ラシェル・ヤカール
羊飼い(カウンター・テノール):ルネ・ヤーコプス
合奏:ラ・プティット・バンド
指揮:グスタフ・レオンハルト
(8:39)
<BMG JAPAN BVCD-38191-92>
カンタータ「ディドン」
カンプラ作曲
ソプラノ:ジャクリーヌ・ニコラ
バイオリン:ダニエル・キュイエ
フラウト・トラヴェルソ:フィリップ・アラン・デュプレ
ヴィオール:ジェイ・バーンフェルド
指揮とクラヴサン:ミシェル・シャピュイ
(10:45)
<ビクター音楽産業 VDC-1371>
カンタータ第16番「主なる神よ、あなたをたたえます」BWV.16
バッハ作曲
カウンター・テノール:ロビン・ブレイズ
テノール:ゲルト・テュルク
バス:ペーター・コーイ
合奏と合唱:バッハ・コレギウム・ジャパン
指揮とチェンバロ:鈴木雅明
(15:57)
<BIS SACD-1711>
2010年1月5日(火) ご案内:大愛崇晴
(副題:今年記念の年を迎える作曲家の作品を中心に(2))
「みやびなヨーロッパ」第2幕「スペイン」から
ドン・ペドロのアリア「眠りの神よ」
スペイン人たちのためのエール 第1番
スペインの女のアリア「愛は望めば手に入る」
スペイン人たちのためのエール 第2番
カンプラ作曲
ドン・ペドロ(カウンター・テノール):ルネ・ヤーコプス
スペインの女(ソプラノ):ラシェル・ヤカール
合奏:ラ・プティット・バンド
指揮:グスタフ・レオンハルト
(12:41)
<BMG JAPAN BVCD-38191-92>
「みやびなヨーロッパ」第3幕「イタリア」から
仮面の人たちのためのエール
舞踏会の女のアリア「嫉妬に狂った心に対して」
フォルラーヌ
メヌエット
カンプラ作曲
舞踏会の女(ソプラノ):マリヤネ・クウェクシルベル
合奏:ラ・プティット・バンド
指揮:グスタフ・レオンハルト
(7:43)
<BMG JAPAN BVCD-38191-92>
「みやびなヨーロッパ」第4幕「トルコ」から
ツァイードのアリア「わが眼(まなこ)よ」(デトゥーシュ作曲)
パッサカリア
反目の女神とヴィーナスのアリア「万事休す」
カンプラ作曲
ツァイードとヴィーナス(ソプラノ):マリヤネ・クウェクシルベル
反目の女神(ソプラノ): ラシェル・ヤカール
合奏:ラ・プティット・バンド
指揮:グスタフ・レオンハルト
(9:48)
<BMG JAPAN BVCD-38191-92>
モテット「主をほめたたえよ」
カンプラ作曲
ソプラノ:ヴェロニク・ジャンス
カウンター・テノール:ジャン・ポール・フシェクール
テノール:ジョゼフ・コーンウェル
バリトン:ピーター・ハーヴィー
合奏と合唱:コンセール・スピリチュエル
指揮:エルヴェ・ニケ
(16:42)
<ADDA 581275>
2010年1月6日(水) ご案内:大愛崇晴
(副題:今年記念の年を迎える作曲家の作品を中心に(3))
カンタータ「女たち」
カンプラ作曲
バリトン:ピーター・ハーヴィー
合奏:ロンドン・バロック
(14:03)
<BIS CD-1495>
モテット「おお、甘き愛」
カンプラ作曲
ソプラノ:ジャクリーヌ・ニコラ
ヴィオール:アンヌ・マリー・ラズラ
オルガン:ウィリアム・クリスティ
(10:28)
<ビクター音楽産業 VDC-1347>
テ・デウム
ドラランド作曲
ソプラノ:ヴェロニク・ジャンス
ソプラノ:サンドリーヌ・ピオ
ソプラノ:アルレット・ステイエール
テノール:ジャン・ポール・フシェクール
テノール:フランソア・ピオリーノ
バス:ジェローム・コレア
合奏と合唱:レザール・フロリサン
指揮:ウィリアム・クリスティ
(20:02)
<Harmonia mundi(仏) HMC 901351>
「クラヴサン曲集 第1巻」から 目覚まし時計
フランソア・クープラン作曲
クラヴサン:オリヴィエ・ボーモン
(2:18)
<ワーナー WPCS-21224>
2010年1月7日(木) ご案内:大愛崇晴
(副題:今年記念の年を迎える作曲家の作品を中心に(4))
モテット「主は言われた」
アレッサンドロ・スカルラッティ作曲
ソプラノ:ナンシー・アージェンタ
カウンター・テノール:アシュリー・スタフォード
バス:スティーヴン・ヴァーコー
合唱:イングリッシュ・コンサート合唱団
合奏:イングリッシュ・コンサート
指揮とチェンバロ:トレヴァー・ピノック
(22:20)
<ポリドール POCA-2552>
カンタータ「捨てられたアルミーダ」
ヘンデル作曲
ソプラノ:エマヌエーラ・ガルリ
合奏:ラ・リソナンツァ
指揮とハープシコード:ファビオ・ボニッツォーニ
(15:27)
<Glossa GCD 921522>
シンフォニア イ長調 作品2第3
アルビノーニ作曲
合奏:アンサンブル415
指揮とバイオリン:キアラ・バンキーニ
(8:59)
<Zig-Zag Territoires ZZT090202>
2010年1月8日(金) ご案内:大愛崇晴
(副題:今年記念の年を迎える作曲家の作品を中心に(5))
聖母マリアをたたえまつる ヘ短調
ペルゴレージ作曲
カウンター・テノール:アンドレアス・ショル
合奏:レ・タラン・リリク
指揮:クリストフ・ルセ
(14:29)
<ユニバーサル POCL-1900>
トッカータ 二短調
アレッサンドロ・スカルラッティ作曲
チェンバロ:リナルド・アレッサンドリーニ
(19:34)
<Arcana A 3>
協奏曲 イ短調
フィオレンツァ作曲
リコーダーと指揮:ジョルジョ・マッテオーリ
合奏:フェスタ・ルスティカ
(12:52)
<Gaudeamus CD GAU 331>
シューマン、ショパン、マーラーは誰もが親しんでいるところですけれども、ケルビーニはモーツァルトと、ベートーヴェンやベルリオーズを結ぶ存在。レクイエムは、荘厳ミサ曲に負けていません。ヴェルディのレクイエムを先駆けているとも言えるでしょう。
スカルラッティは、ペルゴレージの作曲と混戦した状況はまだ尾を引いているようですけれども、イタリア宗教曲の大切な存在です。ペルゴレージの「聖母マリアを讃え祀る」は、映画「アマデウス」でサリエリの父親が食事を喉に詰まらせて無くなるシーンで使われていたので印象深い曲です。
わたしはカンプラの「レクイエム」が大好きです。バレエとオペラを両立させた「雅なヨーロッパの人々」はフランスバロックのディヴェルティスマンの曙と言えるオペラ。リュリとラモーを結ぶカンプラの「レクイエム」は、都会的なフランスの印象よりも素朴な味わいがあります。モーツァルトのレクイエムを軸にして、フォーレのレクイエムと結ばれているように感じながら楽しんでいます。
オフィシャルブログは、
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