世界中で今ではどれだけの膨大なオペラ作品が作曲されて、今でも上演、録音されているものでしょう。上演は不可能と言われる作品も今ではある様に、作曲された当時は現在の劇場では不可能な演出もありました。あなたは教会でのミサ曲にはどういったイメージを持っていますか?
ミサ曲の中でもゴージャスだとされているのがビーバーのミサ曲で、500人の演奏家で演奏されたとされていました。いや、当時の記録からそう思われていたのです。最新の認識では大きな教会の柱にそれぞれグループに分かれた演奏家が配置されて、それらがそうした響きがエコーの様に鳴り在って、あたかも500人の演奏家が居る様に感じられたのでは無いかというもの。オペラではヴェルディの有名な《アイーダ》は野外で初演されました。
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モンテヴェルディにとって最初のオペラである《オルフェオ L'Orfeo》は、歴史的には第6番目のオペラでもありました。1607年2月24日に初演された“音楽による物語”と名打たれたこのオペラは、マントヴァのドゥカーレ宮殿「鏡の間」で、ごく内輪のうちに上演が行われたと言われます。台本は宮廷書記官ストリッジョが執筆し、物語は誰もが知っていたギリシア神話、オルフェオとエウリディーチェの物語によっています。
結婚を祝うオルフェオらのもとに、花嫁であるエウリディーチェの死を告げる使者が駆け込んでくる場面の心理描写の巧みさや、エウリディーチェを求めて冥府に下るオルフェオの嘆きの歌のなど、モンテヴェルディの音楽が持つ感情表現の巧みさと劇性は、それまでの音楽には存在しないものでした。
音楽史上、モンテヴェルディの《オルフェオ》は、オペラにおける最初の完成された作品として称賛されてきました。それは、《オルフェオ》がフィレンツェのカメラータによるモノディ(朗唱)様式を取り入れつつ、独自の「第2作法」による自由で伸びやかな表現を存分に発揮して、瞑府の王の心をも動かずにはおけないような音楽を構築し、劇と音楽とを完全に一致させることに成功しているからです。
《オルフェオ》を聴いていると、次代のアレッサンドロ・スカルラッティが大成したアリア(詠唱)とレチタティーヴォ(叙唱)の分化をすでに感じ取ることも可能です。そして、ガブリエルらのヴェネツィア派の流れを汲む立体的な掛け合いを行う重唱やオーケストラの伴奏の充実ぶりなどによって、モンテヴェルディはカメラータとは比べられないほどの劇的表現を作り出すことに成功しています。
音楽だけでも充分にドラマの流れを楽しむことが出来るモンテヴェルディの《オルフェオ》は、ルネサンス音楽の集大成であると同時に、バロックの輝かしい幕開けを告げる金字塔でもあったのです。
古楽の楽しみ -モンテヴェルディの音楽-(5)