倫理的な森という名称の喫茶店がありました。中学の時に友達の家に遊びに行く行き帰りの途中で、見つけた本屋に寄ったりビルの中を冒険したりしていた時に見かけた喫茶店。その哲学的な響きに興味を引かれていました。モンテヴェルディの超大作《倫理的・宗教的な森》の原題は“Selva morale e spirituale”で、元来の意味は「イタリア語による道徳的内容の曲やラテン語の宗教合唱曲の集成」といった意味らしい。“Selva”という単語には“森”という意味合いもあるから邦題をつけた人が誰で、どういういきさつがあったかは知らないけれども妙訳を見いだしたものだと面白く思っています。《聖母マリアの夕べの祈り》が極められた最高の宗教作品であるのに対して、鬱蒼としています。《聖母マリアの夕べの祈り》の残骸や素材、断片の様なものがいろいろと見いだされる曲集である意味とらえどころが無い。モンテヴェルディが最晩年にまとめたものだから、ぶつぶつ老人の戯言の様な趣でいろいろな人が立ち寄り、言葉を交わしたり物事にふけったりして立ち去っていく喫茶店にはぴったりなのです。
台風6号はとってものろのろした歩みで、熊本が強風圏から抜けるのはお昼前になる予報。老作曲家のつぶやきの様な《倫理的・宗教的な森》からの数曲を、嵐の中で聴いてみよう。